各国国内選手権 & イギリス選手権展望

Athletics News

今夏、フランス・パリで開催されるオリンピック。
陸上競技(マラソンを除く)の参加資格記録有効期間は6月30日までで、この月末に日本を含む世界65カ国でナショナルチャンピオンシップス(国内選手権)が開催されます。

各国のナショナルチャンピオンシップス

多くの国で、この国内選手権がBカテゴリの試合として最後のターゲットナンバー争いがかかると当時に、オリンピック代表選手選考競技会として重要な試合です。

各国で選考方法は異なり、アメリカのように前年の世界選手権の結果も関係なしで内定を出さず、正真正銘一発勝負で決める国もあれば、日本のように前年の結果も考慮し、日本選手権前に内定者を出したあとで、それ以外の枠を争う、という国もあります。

アメリカの場合

アメリカの場合は、U.S. Olympic Team Trials(=全米選手権、以下「選考会」)で3位以内に入った参加有資格者がそのまま代表、4位が補欠、という単純明快な選考方法です。

選考方法は一長一短ありますが、現在行われている選考会で女子800mのアシング・ムー選手が200m地点で転倒し、そのまま8位でフィニッシュしたため、代表から外れました。

ムー選手は19歳にして東京オリンピック金メダリスト、オレゴン世界選手権チャンピオン、昨年のブダペスト世界選手権は3位に終わったものの、その後のダイヤモンドリーグファイナル(プリフォンテーン・クラシック)でアメリカ記録を樹立(1’54″97)した、現役では最強と言っていい選手です。

2023年は出場レースが限られていたため、ワールドランキング上は5位ですが、間違いなく実力は最も高い選手です。

余談ですが、昨年のダイヤモンドリーグファイナルで、ムー選手が勝ったのに、ダイヤモンドトロフィーを2着だったイギリスのキーリー・ホジキンソン選手が持っていたので、なぜかな?と思っていました。よくよくムー選手の結果を見てみると、この年のそれまでのダイヤモンドリーグの各レースには出場しておらず、ファイナル開催国のナショナルワイルドカードでの出場だったため、ファイナルで勝ったムー選手と、2位のホジキンソン選手がダイヤモンドトロフィーを獲得した、ということでした。実際、このようにムー選手のワールドランキング上のプレイシングポイントはダイヤモンドリーグファイナルの”DF”カテゴリではなく、ダイヤモンドリーグの”GW”カテゴリでついています。

また、男子100mでは選考会(6月23日)時点でワールドランキングトップのクリスチャン・コールマン選手が4位になったため、100mの代表にはなれませんでした。(リレーでの代表入りはあると思うので、4×100mRは世界記録(36″84)を狙える史上最強カルテットになりそうです。)

ワールドランキングトップや出場すればメダルや入賞は確実というこういったレベルの選手が、一度のアクシデントで4年に一度のオリンピック出場が叶わなくなるのも一発選考の怖さです。ただ、4番手以降の選手にチャンスが巡ってきても十分メダルや入賞争いができるアメリカだからこそ、この選考方法でもやっていけるのだと思います。

日本の場合

以下、日本代表選手選考要項(一部抜粋、加筆)から、現在の状況をおさらいします。
※全てマラソン、競歩を除きます。

8.選考基準
(略)
(1) 個人種目(男女 10000m を除く)
【内定条件】

1)ブダペスト 2023 世界陸上競技選手権大会で 3 位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者で、参加資格有効期間内に、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
→ 北口 榛花 選手(女子やり投)が内定済
2)1)に該当者がいない種目において、ブダペスト 2023 世界陸上競技選手権大会で 8 位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者であって、2024 年 1 月 1 日(ただし、男女 5000m については、2023 年 11 月 1 日からとする)から 2024 年 6 月 30 日までに、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
→ サニブラウン・アブデルハキーム 選手(男子100m)
  泉谷 駿介 選手(男子110mH)
  三浦 龍司 選手(男子3000mSC)
  田中 希実 選手(女子5000m)
  が内定済

  赤松 諒一 選手(男子走高跳)は標準記録を突破すれば内定
3)第 108 回日本選手権優勝者で、参加資格有効期間内に参加標準記録を満たした競技者。
→ 佐藤 拳太郎 選手(男子400m)
  佐藤 風雅 選手(男子400m)
  村竹 ラシッド 選手(男子110mH)
  野本 周成 選手(男子110mH)
  豊田 兼 選手(男子400mH)
  黒川 和樹 選手(男子400mH)
  筒江 海斗 選手(男子400mH)
  橋岡 優輝 選手(男子走幅跳)
  秦 澄美鈴 選手(女子走幅跳)
  +参加標準記録を突破して優勝した選手は、優勝時点で即時内定。


【選考条件】
4)第 108 回日本選手権優勝であって、参加資格を得た競技者。
5)第 108 回日本選手権 3 位以内の成績を収めた競技者であって、参加資格有効期間内に参加標準記録を満たした競技者。ただし、内定者が選考された種目については 2 位以内の成績を収めた競技者を対象とする。また、下記の項目(数字の若い順に優先)により優先順位を定める。
① 第 108 回日本選手権の順位
② 基準ワールドランキングの順位
6)参加資格を得た者。ただし、下記の項目(数字の若い順に優先)により優先順位を定める。
①第 108 回日本選手権の順位。ただし、8 位入賞までを対象とする。
②基準ワールドランキングでの順位
③確定日ワールドランキングのポイント
7)WA による全種目の未使用出場枠の再配分後に参加資格が認められた競技者。
ただし、基準ワールドランキングにおけるそれぞれの種目のターゲットナンバーの次の順位から10 位以内にランクしている競技者に適用し、下記の項目(数字の若い順に優先)により優先順位を定める。
①基準ワールドランキングにおけるターゲットナンバーの次の順位からの順位
②確定日ワールドランキングのポイント
例)男子 100m・ターゲットナンバー56・WA による再配分後に参加資格が認められた競技者の基準ワールドランキングの順位 60 位の選手と女子円盤投・ターゲットナンバー32 ・WAによる全種目の未使用出場枠の再配分後に参加資格が認められた競技者の基準ワールドランキングの順位 38 位を比較した場合、男子 100mの選手が優先される。
→資格記録やワールドランキングよりも、選手選考には日本選手権の順位が最重要。

日本陸上競技連盟 パリ 2024 オリンピック競技大会 トラック&フィールド種目日本代表選手選考要項

つまり、ターゲットナンバー内に4名以上の選手がいるような種目(男子100m、男子110mH、男子走高跳、女子5000mなど)では、たとえ標準記録を突破していたり、ワールドランキングで余裕を持った位置にいたりしても、日本選手権の順位次第では代表になれないということです。

また、内定していれば日本選手権に出なくてもよいので、すでに内定している5選手のうち、サニブラウン選手、泉谷選手、三浦選手は今大会にエントリーしていません。

ということで、私の地元新潟、デンカビッグスワンスタジアムで行われる日本選手権にもご注目ください。

イギリス選手権展望

イギリスも例に漏れず、この月末にナショナルチャンピオンシップス(以下「イギリス選手権」)がマンチェスターで開催されます。

画像をクリックでWebサイトへ飛びます。

日本選手権は4日間、全米選手権は2日の中日を挟み8日間で開催される一方、イギリス選手権は6月29日と30日のたった2日、それも午後のセッションのみというコンパクトなものです。

イギリスのオリンピック代表選手選考要領を見ると、日本ともアメリカとも少し異なる点がありました。

  • 代表になることを希望する選手は必ずイギリス選手権に出なければならない。
    →日本のように、「内定しているから出ない」という選択肢はない
  • ただし、前年のブダペスト世界選手権での入賞者については、テクニカルディレクターの絶対的な裁量において認められれば、選考を希望する他の種目に出場することができる。
    世界選手権でメダルを獲得した競技者についてはその種目は実質「内定」、2種目めの選考にチャレンジできる。

注目どころで見ると、男子1500mチャンピオンのジョシュ・カー選手は男子800mに、女子800m2位だったホジキンソン選手は女子400mにエントリーしてきています。(実際、代表を狙っているかは分かりませんが。)

もし、カー選手が本気で800mも代表を狙いにきている場合、大変なことになります。

まず、ベン・パティソン選手は800mにエントリーしていますが、ブダペスト世界選手権で3位になっており、実質内定なはずなので、残る枠は2つ。
そこを、カー選手に加え、1分43秒台の自己ベストを持つ、エリオット・ジャイルズ選手、ダニエル・ロウデン選手、マックス・バージン選手が争うことになると、非常に熾烈な争いになることでしょう。(ちなみに、ジャイルズ選手とロウデン選手は同じトレーニンググループです。)

また、男子1500mの枠争いからジャイルズ選手が外れましたが、オレゴン世界選手権チャンピオンのジェイク・ワイトマン選手、昨年のイギリス選手権チャンピオンのニール・ゴーリー選手に加え、今年の5000mで12’58″68(ボストン大学室内)を記録して参加標準突破済みのジョージ・ミルズ選手が男子1500mでも代表を狙っています(男子5000mは他選手が標準突破もしくはターゲットナンバー圏内に入る可能性が低いため、実質内定済み)。

(6月28日追記)ジェイク・ワイトマン選手はふくらはぎの怪我のため、欠場するとのことです。

6月30日はこの超熾烈なイス争いをこの目で見るべく、マンチェスターまで行きます!
そのための予備知識として、自己満足的にまとめました。

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